いまをときめくデンシショセキ

そこかしこで様々話題になっておりますが、電子な書籍のお話。
 LLtigerでも「LLと電子出版」と題するパネルディスカッションが行われました。パネラーは以下のメンバー。
 以下、前回と同じようにメモです。変だなあというところは自分の聞き取りミスでしょう。

ワークフローについて

鈴木
 出版社がいままでやってきたワークフローに問題あり。従来のフローとEWB(Editor's work bench:アスキー独自のワークフロー)のワークフローを比べてみる。DTPは修正が楽なので校正が楽。何度校正してもきりがないので、アスキーは3回でやめるようにしている。DTPで本作りを進める場合は、最後の場面でしか印刷所がでてこない。従来の冊子体の本作りでは印刷所は最初から関わっている。出版社は印刷所とべたっとくっついて出版をしてきた。特に文芸系の出版社はDTPへの移行が遅かった。原稿の修正作業は印刷所の仕事であって自分たちはしたくない、という意識が強い。なので、古手の出版社では印刷所にお願いしている状況がある。すると、出版社は出来上がった紙しか持っていなくて、電子データは印刷所が持っている、という状況。
高橋
 補足させてもらうとEWBは従来のフローより進んでいる。手作業=コストをどれだけ削減できるかというところが問題なので、EWBはかなりがんばっている事例だと思う。それから、紙の出版というのは紙になっていないと見せられないが、PDFになっていれば電子出版としては売れる、というところがメリット。
鈴木
 EWBはtexを利用した高品質な組版ができる。トリガはタグみたいなもの。クリック1つでPDFファイルに出力できる。面付けまで含めて一括で処理してしまう。オープンソースとして公開しているがなにぶんバージョンが古い。最新バージョンはまだ公開できない。使いこなす方もtexのことがわかっていて、EWBのことがわかっていないと使えないという意味でやや大変。だが、幸いながら本がでている、(アスキーからではなく)ソシムから「VMware playerですぐに使える日本語Tex&EWB」。なぜアスキーからではないのか?とびっくりされるかもしれないが、元関係者が出した本。EWBを使うとテキストファイルで書いて、クリック1つでできるので校正が非常に簡単。ただし、デメリットとしては簡単に校正できるためいつまでも校正作業が続いて終わらない、ということ。

フォーマット

西尾
 電子書籍をやろうといったらPDFがでてきた。PDFだけではだめだろう。その辺りのお話を。
高橋
 電子書籍、というとまさに今の話になってしまう、が電子書籍の話を理解するためには若干さかのぼる必要がある。いくつか軸を増やして作ってみたのがこの表。DTPの話。マルチメディアの話、エキスパンドブック、T-timeがでてきたり。html の流れをくんでいるのがEpub。PDFとEpubどっちのフォーマットがいいとおもいますか?読み手が選択できる方がいいですよね。たとえば、今日はこのデバイスを持っていくからこのフォーマットで。このライセンスを持っているから、どれでも読める、というのが理想的。

コストとビジネス

瀧澤
 海外のオライリーはワンライセンスになっている。それぞれのフォーマットを購入するのではなく、購入したらいくつかのフォーマットで利用できる。海外のオライリーができるなら、日本でも?改善してできるように。いまは初期コストをどうやって回収しようと頭を悩ませているところ。
鈴木
 出版社では電子出版、電子書籍がどのくらい売れるのか疑問におもっているところ。紙の方が圧倒的に売れて電子書籍は微々たるもの。オライリーは5%くらい。高橋さんが大変心配。笑。紙の本は例えば7000冊出したとして、全部は回収できない。汚破損などで10-20%は無駄になる。アメリカの○○(聞き取れず)が印税30%とれるといっているが、本当かい?というところ。著者印税10%、apple30%にしたら出版社の利益50%になる。日本はアメリカに比べると電子書籍の土壌ができていないので、印税あげて、価格下げてというのはやはり現実的ではない。オライリー電子書籍を2割引で売っているので他もそのくらいだろう。どこかが100円とか価格破壊しなければいいなあ、とみている。
高橋
 100円-200円で出したいのはやまやま。それから、紙で利益を得て電子出版はおまけ、というのもつまらない。支払いに関してはpaypalが手続きが簡単でいい。電子書籍の値段も1000円超えると利益もなかなかいい数字になってくる。どれくらい売ればいいのか、というあたりをシミュレートしたのがこの表。著者と版元半々で考えて、この表(売上額計算表)をつくったときはやっぱり(電子出版の会社をおこすのは)やめたほうがいい?と正直おもった。10冊つくって3000部売り上げ?というあたり、けっこうしょっぱい商売かも。儲からないよね、という感じである。すると、出版にかかるコストをいかに削るかが勝負になる。人を増やさずに出版が回っていく仕組みを作らなければ、というところ。

 このときのスライドと補足はこちら。
 http://d.hatena.ne.jp/tatsu-zine/20100801/1280715247

西尾
 電子書籍、どのくらいさばけるようになるでしょう?
森田
 デバイスの普及が問題。出版社が失敗しなければうまくいくのか。
瀧澤
 なにが出版か、という問題がある。例えばうちには開くと魔法陣、という本がある。それを電子出版するか、というと疑問。出版されているものも多様なものがある。
鈴木
 出版はコンテンツを独占、流通を独占というビジネスモデルで定義されている。従ってブログなどウェブにあるものは出版ではない。先のビジネスモデルを破壊するものだから出版とは認めない。一方でウェブという電子出版がどんどん拡大し、紙の出版が目減りしているのは出版社にとって課題となっている。コンテンツの有料化をウェブの世界にもちこもうとしているがうまくいっていない。従来の出版社がやってきたコンテンツと流通を独占するのとは違う別のビジネスモデルが必要となっている。出版社が倒産、いよいよ泥沼化してくるのか、とおもっていたらkindleiPadが登場した。電子書籍はいってみればウェブの劣化版。今までにない読書体験とか宣伝しているのをみるけど、flashのデモ?にしか見えない(会場大受け、ここで拍手)。電子書籍は正直なところ疑問。本の書き手が苦しんでいて電子書籍に必死にしがみついている状況だろう。来年には(電子書籍に関する)大騒ぎが終わって、そこで改めて評価されるだろう。あのお祭り騒ぎはなんだったんだろう?ということになってるんじゃないの。電子書籍は売れないかもしれないけどがんばってどこも出してくるだろう。そして、普及してくれれば市場ができていくのでは。ただし、大きな出版社が生き残るほどの市場はできないんじゃないか、とみている。
森田
 (電子書籍によって)書き手と読み手の距離がより身近なものに。いわば、ラップトップの中に出版社の機能がある。一緒に書いて一緒に読む、という面白い体験が10年後にできるのではないか、と思う。
高橋
 とにかくいま(本で)読みたいものがないことが多い。たとえば、 (Ruby on )Railsでこういうことをしたいと思っても日本語の本で探すと適当な本がない。10年後にはこれ(本における情報更新の早さ)ができてほしい。ウェブががんばっているが、古い情報が残っていたり、最近はみなさんtwitterが大好きでブログの更新をさぼっている。笑。電子書籍がそこに食い込むのではないかと見ている。将来的にpaypalで支払って(電子書籍で)技術書が読めるような時代になるのではないか。

かんじたこと

 Flashのデモにしかみえない、で会場がウケて拍手喝采なのには驚いた。なるほど、そういう見方か、とも。自分自身も感じているところだが、技術書全般はWeb上の情報にお世話になることも多いが、入門書的なものはやはり図書でしっかりとまとまっているものの方が断然使いやすい。コマンド、tipsなどのレファ本なんか特にそう。
 小説、読み物などの本と技術書的な本は若干、使われ方が違うので、違うマーケットを築いていくのかもしれない、となんとなく感じた。

 しかしアスキーのEWBは始めて聞いたのでびっくりした。まだ触ってないのであとで触ってみたい。

 あのー、まだまだ続きます。もう一回。そして、次が本題。