消えたインパクトファクター、の謎

 カレンダーをめくらなければ3月のままで4月にならないと思っていたのですが、そんなわけはないですね。はい、みなに等しく4月はやってきます。前からまとめたいネタをまとめるための前座、というわけでひさびさ更新。
 今年の4月は各独立行政法人にとって節目に。いくつかの機関にとって新しい中期目標がスタートする年だから、です。中期目標については以下を参考に。(以下、引用文中における太字は著者による強調)

独立行政法人通則法
第二節 中期目標等 第二十九条  主務大臣は、三年以上五年以下の期間において独立行政法人達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。)を定め、これを当該独立行政法人に指示するとともに、公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。

 中期目標=5年の期間、と思っていましたが「三年以上五年以下の期間」なんですね。なるほど勉強になりました。
 それはさておき、中期目標というものを設定し、中期計画を設定し、最後には年度計画までブレイクダウンして設定する、ということになっていて、研究開発型独立行政法人(この言い方が正しいかどうかは知りません)では5年という期間を設定しているところが多い様子。

 産業技術総合研究所(AIST)がさっそく中期目標、中期計画、22年度目標を公表。

産業技術総合研究所が第3期をスタート」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100401/pr20100401.html

 その中で、特に研究機関の成果発信・普及と研究評価の部分に着目して抜き出すと、

第3期 中期目標(H22/4-H27/3)
世界トップに立つ研究機関を目指し、論文数の拡大を推進するとともに、その論文の被引用数に基づく世界ランキングの向上を実現する。

第3期 中期計画(H22/4-H27/3)
世界トップに立つ研究機関を目指すべく、年間論文総数で5,000報以上を目指すとともに、論文の被引用数における世界ランキングにおける順位の維持向上を図る。

 ついでに、H22年度の年度計画から。

H22年度計画(H22/4-H23/3)
産総研の研究成果を社会へ還元するため、また、国際的な研究機関としての成果発信水準を確保するために、産総研全体の論文発信量については、年間論文総数で5,000報以上を目指す。

 

 AISTは冒頭のニュースにもあるようにH13に独立行政法人化してから3度目の中期計画を経験する「第3期(H22/4-H27/3の5年)」に。第3期では、論文数が5,000報以上かつ被引用数の世界ランキングでの順位を維持することが目標、とのこと*1。続けて、第1期(H13/4-H17/3の4年)、第2期(H17/4-H22/3の5年)の中期目標、中期計画を並べてみると、

第1期 中期目標(H13/4-H17/3)
ウ)[成果の発信]
研究所の概要、研究の計画、研究の成果等について、印刷物、データベース、インターネットのホームページ等の様々な形態により、広く国民に対して分かりやすい情報の発信を行うものとする。研究活動の遂行により得られた成果が、産業界、学界等において、大きな波及効果を及ぼすことを目的として、特許、論文発表を始めとし、研究所の特徴を最大限に発揮できる、様々な方法によって積極的に発信するものとする。

第1期 中期計画(H13/4-H17/3)
鉱工業の科学技術に与える影響および成果の効率的な周知を国際的に推進する観点から、注目度の高い国際学術誌等に積極的に発表することとし、あわせて質の向上を図るため、平成16年度においてインパクトファクター(IF)上位2000報のIF総数(IF×論文数の合計)で5000以上を目標とする。

 ようやっとでてきました、インパクトファクター*2
 ちょっとわかりづらいのですが、インパクトファクターが1の雑誌に掲載された論文が4本あったとします。その時、1×4=4、と計算し同じようにすべての論文について計算して合算していった数字が中期目標終了年時に5,000以上となることを目標としている様子。そして、第1期の中期実績は以下の通り。

[第1期 中期実績]
・研究成果発表データベースを構築、運用し、誌上、口頭発表など成果を広く収集した。紙上発表件数は、平成16年
度:4,750件(4/30に確定)、平成15年度:4,482件、平成14年度:4,119件、平成13年度:3,762件であった。
・上位2,000報のIF総数は、平成16年度:5,539(4/30に確定)(平成15年度:5,453、平成14年度:4,769、平成13年度:
4,243)であった。

 無事に達成できている様子。続けて第2期の中期計画、中期目標。

第2期 中期目標(H17/4-H22/3)
また、論文などの学術的な成果についても、研究活動の遂行により得られた科学的、技術的な知見などを広く社会に公表することによって産業界、学界での科学技術に関する活動に貢献するとの観点から、積極的に発信する。

第2期 中期計画(H17/4-H22/3)
研究開発の成果を科学的、技術的知見として広く社会に周知公表し、産業界、学界等に大きな波及効果を及ぼすことを目的として論文を発信する。産総研全体の論文発信量については、国際的な研究機関としての成果発信水準を確保し、年間論文総数で5,000報以上を目指す。また、産総研の成果を国際的に注目度の高い学術雑誌等に積極的に発表することとし、併せて論文の質の向上を図ることにより、第2期中期目標期間の終了年度において全発表論文のインパクトファクター(IF)総数(IF×論文数の合計)7,000を目指す。

 ひきつづき出てきましたね、インパクトファクター。そして、非常に望ましくない使い方で(というより間違って、、、)。そして第1期と違うのはインパクトファクタ―総数(?)を計算する際に上位2,000報の合計ではなく、すべての成果について計算するということ。その上で、5,000->7,000と2,000も数値が上昇。達成できたのでしょうか??第2期の事業報告はまだでていないので、年度報告をひとつずつ当たってみようかと思ったのですが、時間の無駄そうなのでやめ*3
 というのも、このような目標を掲げたAISTが目標を達成できたかどうか、が重要ではないので。インパクトファクターという数値の使い方が誤っていること、しかも日本で最大規模の研究機関が成果評価として使い続けた、という点が重要*4

 そして、冒頭に挙げたように第3期ではインパクトファクター総数なる評価指標は消えました。おそらく第2期は数値目標を達成できなかったのでしょう(注:未確認です!)。そして産総研主催の成果評価のイベント*5などもあったように、内部でも見直す動きがあったのだろう、と*6

 他の研究開発型独立行政法人がどのような指標を掲げてきたかがもうじきわかるので、各機関の新中期目標が出そろったころにどんな感じなのか改めてざっとまとめてみたいと思います*7

*1:被引用数の世界ランキングでの順位、は何のツールを使うんでしょうね

*2:インパクファクターは学術誌自体に設定される数値であって、各個別論文に与えられる数値ではない。したがって各個別論文のインパクトファクターというものは存在しないので、こうした使い方はあまり望ましくない。というわけで第3期でインパクトファクターが指標として消えたことは「謎」でもなんでもなく望ましい形になったわけです。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC

*3:H21年度の事業報告がでていないので、最終年度の数値も分かりませんし。

*4:評価するにあたって何らかの数値的指標が必要、という現場の状況は良く分かります。が、しかし、、とも思うのです

*5:自分もいきました。かたつむりさんのブログに詳しい http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20090601/1243869805

*6:政府系の報告書でこの点について触れていた気がするのですが、今探しても見つからなかったため、見つかったら追記します

*7:別にAISTのやり方を非難したいわけではなく、各機関の現状どうなっているかを整理してみたいと思っています。大よそは把握していますが。